15年あまり1匹の犬とともに暮らしてきた感想のあれこれを綴っていきます。
1歳頃の紀州犬君。飼主なにするものぞの気概が感ぜられます。
8月6日、今年初めて犬舎の敷藁を交換しました。一昨年までは冬が終って初夏が来て、梅雨が来る前の空気が乾燥する5月に行っていた年中行事でした。新しく敷く乾燥した新鮮な敷藁は去年の秋に手に入れて、地下室に豊富に保存してあります。
去年は犬君の毛更りの時期がだいぶ遅れて、梅雨があけてから犬舎の敷藁を運び出して燃やしました。古くなった敷藁には何が住んでいるかわからないので、運び出した藁は必ず燃やすことにしています。犬君が暑そうにしていましたので、去年は古い毛を梳いてやったあとにも新しい藁は秋口まで敷きませんでした。犬舎の床に直に寝かせていたのです。犬君が年をとるとともに毛更りの時期が遅れてきたのに気づいてはいましたが、加齢がどういうことであるかを直視することをわたしは先伸ばしにしていました。
今年になって2月の半ば過ぎから犬君の足が弱ってきて、3月になって寝ついてしまいました。このとき犬君の年齢は14歳と7か月。以後犬君には立ち上がるちからも意志もなくなったようです。
今年も使用済みの敷藁は犬君の体重で潰れ、一部はすりきれて粉になっています。犬君を犬舎の外へ出して離れたところに寝かせ、犬君が眠っている間に藁を運び出します。手軽に運び出せる量ではありません。この地の冬の寒さが半端でないことを、夏になって思い知らされます。焼却も数回に分けて行ないます。
いま、敷藁を運び出したあとのむきだしの堅い床に、寝たきりになった犬君を寝かせるわけにはいきません。すぐに敷藁を敷こうと思い、乾燥したいい匂いのする新鮮な藁を地下室から運びあげ始めました。去年敷いた藁を思い出して犬君が快適に寝ることができる藁の量を考えながら藁束を運び上げ始めたのですが、運ぶ藁に今年は例年とは別の意味がこもっていることに気がつきました。敷藁の主は、来年の春にはおそらくこの世にいません。わたしが犬君を世話できるのは今年が最後になるでしょう。
わたしたちは東経138度28分、北緯36度14分、麓の集落から1km離れた標高約1000mの山の中に住んでいます。夏は過ごしやすいのですが、厳寒期の最低気温はここ数年平均して氷点下16度程度です。
生後49日の犬君は1990年9月末に家にやってきました。1989年に続いてその年の冬も特に寒く、1991年2月には明け方の気温が氷点下23度、もっとも暖かい午後1時頃の気温が氷点下10度に満たない日が1週間以上続いたと記憶しています。その頃犬君は普通の食事ができる程度まで育っており、食事の後には鶏ガラからとった無味のスープを飲ませるのが習慣でした。犬君は食事を外でとります。寒いので煮えたぎらせたたスープを持って外へ出るのですが、食事が終ってスープにとりかかる頃にはスープの表面に氷が張って、その氷を手で割って飲ませていたものです。スープ全体が完全に凍ってしまって火にかけ直したことも何度かありました。
犬君と暮らし始めて、わたしは毎日2、3時間かけて散歩するようになりました。紀州犬には充分な運動が不可欠なのですが、放し飼いはできないからです。散歩する環境は家から麓まで降りても、家から山の上まで登っても、いずれも山道です。犬君は環境にすぐに適応しましたが、わたしのからだが慣れるまでには時間がかかりました。家から山上の林道までは標高差が300m、距離はほぼ2kmあります。犬君の健康を保つためには、天気が良くても悪くてもこの散歩を毎日続ける必要がありました。中高地の歩き方をわたしは犬君から教わりました。
犬君とともに歩き続けるということは、わたしと犬君を取り囲む空気を犬君とともに吸い、小動物、人間を含む大型獣、草木を問わず犬君にかかわるあらゆるものを犬君とともに経験するということでした。犬君が成長し、老犬となった15年間のわたしを取り巻く風景の変化は五感を通じてわたしの中に入り込んでいまのわたしのあり方を形成し、わたしそのものになりました。
その犬君がまもなく生涯を終えようとしています。このときを避けることはできません。犬君自身は行動に制限を受けながらも結構奔放に生きて来たのではないかと思いたいのですが、わたしは犬君への大きな負いめを感じています。負いめの内容はおいおい書いていきますが、この上は安らかに生涯を終えられる環境を犬君のために整えたいと思っています。
犬君の生涯の最後をまのあたりにして、どうすれば最後まで犬君を楽にできるかをインターネットで検索しても、役に立つウェブサイトはわずかでした。足が萎えてからの犬君の老化の進行は速く、わたしたちは次々と新しい事態に対処しなければなりませんでした。わたしたちの奮闘の跡が同じ思いの人々のなにがしかの役に立つことを願っています。
別ページ
はなたろ組 はなたろ 株トレウオッチャー